そんな風に私が迷っているとき、
「こわれちゃうよ」
ひろこの声がした。
その声を聞いてりょうまの動きが止まった。
ひろこはりょうまの前に立ち、もう一度りょうまに伝える。
「こわれちゃうから、やめて」
「ごめん」
ひろこにりょうまの「ごめん」は聞えたはず。
でも、ひろこはりょうまの目の前にまだ立っている。
「ごめん」
もう一度、りょうまはあやまる。
ごめんって言っているし、りょうまの表情から悪かったなーって気持ちも出ているけれど、これで解決ではないようだ。
二人の間に入って話を聞いてみよう。
「ひろこちゃん、まだ伝えたいことがあるの?」
「……」
沈黙じゃない空気。ひろこは言葉をさがしている。
きっとある。何か伝えたいことが。
まってみよう。ひろこの言葉を。
「……こわさないように、入って」
えっ?!
私とりょうまはたぶん同じ表情をしたと思う。
ひろこはただ、怒っているだけじゃなかったんだ……。
もうおばけ屋敷に入れないわけではないんだね。
私とりょうまはうなずいた。
そして、りょうまは笑顔でおばけ屋敷に入っていった。
何日もかけて作った愛情たっぷりのおばけ屋敷。
ひろこは開店当日、お化け屋敷の入り口でとびっきりの笑顔でお客さんを迎えたのだった。
普段の遊びでお店屋さんごっこを楽しむ年長組の子どもたちが、
いつもとは違う特別なお店屋さんを開く。
開店の日を決め、年少組と年中組をまねくために何日もかけて準備をする。
どんなお店を開きたいのか相談して、そのためにどんな材料が必要か考え、
品物を作っていく。
お菓子屋さんはたくさんのお客さんが来ることを予想して、
あめを100個作ろうと力をあわせている。
マクドナルド屋さんはハンバーガーやポテトを紙で作る。
帽子をかぶれば店員さんになりきれる。
おばけ屋敷は大型積み木やダンボール、黒い布を使って、
お部屋の半分もの広さがあるものを作っている。
黒の絵の具でおばけを描いて、おばけのお面も用意している。
いろんなお店が並ぶ。開店まであと3日。
「ねえねえ、お化け屋敷にいれて」
年少組と年中組が来る前に、遊んでみたいなと思ったのだろう。
他のお店屋さんを開く子がお化け屋敷に入っていった。
お化け屋敷の暗さ、お化けの不気味な声。
中に入った子は怖いから、いそいで逃げる。
お化けは、それが面白くて演技に力が入る。
ガタン、ガタン。
積み木が揺れる。
それでも逃げる。驚かす。
ガタン、ガタン。
りょうまはそれを何度も繰り返していた。
お化けの方は、積み木のゆがみに気づきだしたのか、少し静かになった。
ギャーキャー。
ガタン、ガタン。
その様子を見ていた私。
このままだとお化け屋敷が壊れるな。
「こわれちゃうよ」のひとことがのどまででかかる。
このひとことを言うことは簡単。
りょうまは走るのをやめるだろう。
私の言葉に続いて、
「やめてよ〜」と言う子もでてくるだろう。
楽しんでいるのもわかるし、でも作った子の思いもあるし……。どうしよう。
言おうかな。でも、あと3日あるから壊れたって直せる。
壊れた経験をした方が、子どもたちを成長させるかもしれない。
ひと言を言うのは簡単。でもただ注意するだけでいいのかな?
このお話の続きはまた来週。
こんばんは。
毎日暑い日が続いていますが、夏バテしていませんか?
今週、次週の子遊記は夏休みを頂いたきたいと思います。
また来週から再開しますので、よろしくお願いします。
「おれ、新聞おばけやる」
おばけ屋敷を作ろうと決まったとき、ゆうじがそう言った。
「なにそれ?」
そんなおばけ聞いたことがない。
おばけといったら、「うらめしや〜」でしょ?
「新聞いりませんか〜って新聞を売るおばけ」
聞いたことないけれど不気味そう。
そんな新聞読みたくない。
「それから、それからね。ペットボトルにお水をいれて、
その中に赤い絵の具をとかして、血のジュースも作るの。
それを新聞と一緒に並べるんだ」
はじめに「なにそれって」言ったこと、取り消すね。
ろくろくびやひとつ目小僧よりも怖いおばけだよ。
「新聞いりませんか〜」
おばけ屋敷からは何度もそのこえが聞えてきている。
お客さんは「新聞なんていらない」って言いながらいそいでその場を通りすぎる。
年少さんは先生と一緒に逃げるけれど、怖さと面白さを感じて何度もおばけ屋敷に入りにくる。
新聞おばけは大成功。
二年後……。
「おばけ屋敷作ろうよ」
こどもたちの好きな遊び。
今年はどんなおばけ屋敷ができるんだろう。
「おれ、新聞おばけやる」
!!!!! 新聞おばけ!!!
君はあの時の年少さん!!
もう一度言いたい。新聞おばけ大成功。
今年のおとまり会の夕食は豚汁に決定。
作るだけじゃなくて、自分たちで買い物をしたらきっと楽しいよ。
おとまり会の前日、幼稚園の近くにある八百屋さんに材料を買いに行こう!
お金をはらう子。
にんじんを買う子。
お味噌をえらぶ子。
それぞれ役わりが決まっている。
なこは、みんなより小柄なおんなの子。
大根を買って、幼稚園まで持って帰るのが役目。
なこが大根をもつと、より一層大根が大きく見える。
袋が地面につきそうだ。
重そうだな〜
「ねぇねぇ、なこちゃん。先生も一緒にもとうか?」
「だいじょうぶ」
「お友達に手伝ってもらう?」
「だいじょうぶ!!」
……ぴりぴり。
白いビニール袋から大根の先が見えだした。
それでもなこは一人ではこぶ。
うんとこしょ、どっこいしょ。それでもなこは頑張ります。
幼稚園までの道のり、みんなはお友達とおしゃべりをしながら歩く。
でも、今日のなこはおしゃべりをしない。
つるつるの石や大きな葉っぱがあればお土産にする。
でも、今日のなこは拾わない。
セミの声がすれば、どの木にいるのが上を見上げてさがす。
でも今日のなこは前をまっすぐ見ている。
幼稚園がみえてきた。
あと少し、もう少し。
なこは最後まで大根を一人ではこんだ。
なこにこんな一面があるなんて知らなかったな。
すごいな、なこ。
明日の豚汁、おいしいだろうな。